2018年5月13日日曜日

たまに思い出すこと

学生時代、法律関係のサークルに所属していた。
サークルには学校の先生の他、サークルOBの弁護士の先生もいらして、そのうちのお一人の方の事務所でアルバイトをすることが数回あった。
アルバイトといっても、先生の事務所の慰安旅行の留守番だから気軽なもの。弁護士業務のバックエンドの仕事をするわけでもなんでもない。
1日寝泊まりするだけで確か1万円いただいていたと思う。先生は2泊とか3泊されるので、バイトは日替わり、2人体制でやっていた。

温和な先生、先生に輪をかけて温和な奥様。そして事務アルバイトの丸顔でメガネをかけた、いつもニコニコした若い女性。夏本番の爽やかな朝方に先生の事務所兼住居のマンションにお邪魔し、「いってらっしゃい」とお見送り。
アルバイトとしての仕事は、事実上、この数分間だけ。先生のおっしゃる「自由に過ごしてよい、帰ってくるまでに現状回復されていればいいから」を鵜呑みというか、その深慮遠謀なところを全く慮ることなく自由に過ごしていた。

まず、暇そうなサークルのメンバーに電話をする。1980年代のことだ、今と違ってスマホはおろか携帯電話すらない。事務所の電話を勝手に使うのだ。
サークルの夏合宿の宿題作成や遠征のカリキュラムの打ち合わせという名目で続々とメンバーが集まる。エアコンが効いた広い応接室で重厚なレザーのソファにもたれかかったら、もうそんな打ち合わせなんてどうでもよくなる。
だらだら喋りながら、お弁当屋さんで買ってきたお弁当を食べる。誰かがビールを開けた瞬間にアルバイトの建前すら消え去り、完全な居酒屋になる。
私はお酒を全く飲めないので、冷静なのだが、まあみんな悪知恵が働くというか。先生の書斎から高そうなウイスキーを1杯失敬するやつ。それを真似てまた1杯失敬するやつ。夜半には高そうなウイスキーは数本空になっていて、そこにサントリーのホワイトを入れてごまかそうとするわけだから、法学部の学生なぞ辞退した方がいいと思うような振る舞いばかり。昼間から明け方までソファに寝そべったり床に寝転びながらポテチを食い、コンビニの弁当や冷凍食品を広げてダラダラ喋る。それが48時間続くのだ。今思えばとても贅沢な時間の過ごし方だけど。

3日目の10時頃、先生から「今から帰ります」と電話がある。これを聞いてからの「現状回復」がある意味本当のアルバイトだった。タバコ臭くなった部屋の換気、ポテチのカスなどで汚れた部屋の掃除、飲んでしまったウイスキーの証拠隠滅。正規アルバイト以外のメンバーの追い出し。
今考えると先生の帰るコールは「そろそろ原状回復にとりかかってくださいね」というメッセージだったのだろうと思う。いや、そもそもアルバイトもお小遣いをくれる名目だったのだろうとも思う。
あれから30年。先生も80歳をとうに超えているはずだ。お元気だろうか。
地下鉄の駅を降りて地上に出ると、先生の事務所のあったマンションのことをたまに思い出す。サントリーホワイトに入れ替えをするS君の無精髭の生えた顔や、寝癖を直すMさんの顔も脳裏にありありと浮かんでくる。

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